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サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

筒美京平氏の正体は「非常に腕の良い洋食屋のコックさん」 『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』読後感

 

 

いしだあゆみブルーライトヨコハマ」、小泉今日子なんてったってアイドル」、C-C-BRomanticが止まらない」の共通点は?と聞かれて、即座に答えられる人はそうそうはいないはずだ。

 

答えは「筒美京平作曲作品」であること。

 

標題の書はレコードの総売上枚数が7,600万枚を超える、日本のポピュラーミュージック界最大の作曲家、筒美京平氏の生涯を、筒美氏と公私共に親交がある近田春夫氏が、語りおろしの形で追いかけた一冊。週刊文春に連載中の『考えるヒット』において、豊かな知識と斬新な切り口で折々のヒット曲を分析している近田氏が、筒美氏のヒット曲の数々を詳細かつわかりやすく解説している。

 

冒頭の出来損ないのクイズでも述べた通り、筒美氏は実に多作で、しかもジャンルを問わない。グループサウンズからムード歌謡、アイドル曲にニューミュージック、果てはシブヤ系に至るまでことごとくヒットを飛ばしている。特に1970年代から80年代に関しては筒美氏なしには日本の歌謡曲界は回らない状態であった。

 

なぜ、筒美氏は、これほどまでに多数のヒット曲を、長い期間にわたって作り続けることができたのか?私は音符も読めないただの歌好きであるので、作曲に関する詳細は本書の近田氏の懇切丁寧な解説を是非ともお読みいただきたいのだが、ごくごく荒っぽくまとめてしまえば、海外の音楽の流行に非常に敏感であったことと、その流行を日本のポピュラーミュージックにどう翻案したらヒットするかの見極めが非常に巧みだったということになろうか。

 

私が筒美氏を「洋食のコックさん」と例えたのは、この翻案の巧みさにある。「洋食」はもともと海外のメニューが源流だが、日本人がさまざまに手を加えていった結果として、西洋人かの目には、まるで日本オリジナルな料理のように映っていることだろう。トンカツ然り、カレーライスしかり。洋風な調理方法を基本としながらも、隠し味に醤油を使ってみたり、卵とじにアレンジするなどの独自の工夫を施すことによって、日本国民に浸透していった。

 

海外の最新流行の音楽を、そのまま持ってくる(例えばそのものズバリを日本人の歌手がカヴァーするなど)と一部のコアで先鋭的な人々にしかウケないが、日本人の好みに合った味付けにすれば広く一般にウケる。もう一つ言えば、ポピュラーミュージックは、例えばクラシックのコンサートのように正装して高い金を払って味わうものではなく、手軽な値段で、気楽な状態で楽しむことのできるモノである。ドレスコードがあるようなレストランで味わう高級料理ではなく、まさしく普段着で気兼ねなく味わえる洋食屋の料理のような存在だ。

 

そして、「美味」の価値はどちらが上でどちらが下かなどの優劣をつけるモノでもない。聴いた際にどれだけ「快適さ」を感じられるかが、その価値だ。筒美氏は、多数のヒット曲によって、多数の日本人に小難しい理屈のいらない長時間の快適さを届けてきたのである。この功績は間違いなく大きい。私が敬愛する大瀧詠一師匠は「コピーよりもオリジナルの方が尊い」とする考え方に異を唱え、さまざまな楽曲から快適なフレーズを抜き出し独自のアレンジで、より快適な楽曲を作り出すことを意図していたが、筒美氏も根っこは同じ。大瀧師匠があくまでも自分の好きな曲にこだわって、メガヒットするような曲とは縁遠かったのと違って、筒美氏は、売れる音楽を追及し、そこに自らの審美眼や音楽的な能力を特化させた。これはこれで大変な才能だと思う。常に大衆の好む味を出し続けるなんてことは奇跡に等しい。そんな奇跡を長年にわたって見せ続けた筒美氏は、モーツアルトなどとは性質の違う天才だったと言っても良いのではないか?

 

さて、私が筒美氏の作品の中で一番好きなのは郷ひろみの「よろしく哀愁」である。

 

 

 

 

「逢えない時間が愛育てるのさ」、なんという切ない歌詞だろう。この歌が発表された当時の私は小学生で、歌詞の意味は実感できなかったが、その名の通り哀愁を帯びた曲調に惹きつけられていた。のちに歌詞の意味を体感して、この曲の醸す世界観をしみじみと感じるようになった。カラオケでもたまに歌っている(笑)。

 

余談だが筒美氏は男性では郷ひろみ、女性では平山三紀(現 平山みき)が好みの歌手だったそうだが、両人ともに声が特徴的な方だ。また男女の違いはあるが、このお二人、声質がよく似ている。かなり以前のお話になるが、素人がモノマネをしてみせる番組で、とある出演男性がまず郷ひろみのマネをして、その次に平山三紀のマネをしたところ、司会のお笑い芸人が「全く一緒じゃねーか」ってツッコミを入れて、大笑いしながらその通りだと思った記憶がある。