脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

人生いろいろ、ドラフト指名順位だっていろいろ、挫折もあれば成功もある『ドラフト最下位』読後感

 

 著者村瀬氏は、現在のDeNA横浜ベイスターズという球団が大洋ホエールズと名乗っていた時代からの熱烈ファンで、この球団の歴史を丹念に辿ったルポルタージュ『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』という好著を上梓されている方である。リンクもしたが、この書の読後感については別口のブログに書いているのでご興味のある方は是非ご一読を。

 

さて、標題の書は、16人のドラフト最下位指名選手にスポットを当てたルポルタージュ集である。ご親切なKindleさんが私の過去の読書履歴からオススメしてくれたし、前述の書も読み応えがあったので、素直にKindle Unlimitedを利用して読んでみた。

内容的には非常に満足した。特に最下位指名を受ける際の、選手自身の焦りや喜び、周囲のイラつきやシラケぶりなど、ドラフト会議翌日のスポーツ新聞のベタ記事でしか読んだことのない現場の状況が興味深かった。

 

指名を受けそうな選手に対してはマスコミが貼り付くし、それに伴って周囲も緊張する。しかし指名されないまま時間だけが経過し、野次馬や後輩たちが一人去り、二人去りし、マスコミも緊張感を無くした頃合いに、ようやく指名が確定する。待ってる時間、本人も変な緊張感を持続しなければいけないし、周囲もヤキモキする。常に手の届かない場所にかゆみを感じているようなもので、私なら到底耐えられない。多少自分の身に起こったことで類似する状況を考えてみると、就活時期に内定の電話を待つ時の気持ちだろうか。ドラフト指名にかかる可能性のある選手なら、周りの人間の方がよほど気を揉むのかもしれないが…。

 

ここのところ立て続けに読んで紹介した田崎健太氏の「ドラフト三部作」に取り上げられた人たちに比べると、この書は挫折した人の例の方が圧倒的に多い。資質がプロのレベルに合致しなかったのか?環境に恵まれなかったのか?各人各様の理由は是非とも本文に当たっていただきたい。

 

さて、選手の中で一番気になったのは、指名を受けた球団は楽天だが、2019年春にヤクルトに移籍した今野龍太投手である。彼の出身高校は宮城県岩出山高校。私は宮城県には都合6年近く住んでいたが、この高校が話題になったことは一度としてなかった。宮城の野球の強豪校といえば、仙台育英東北高校が双璧で、両校ともにプロ野球の世界でも活躍するような選手を多数輩出しているが、岩出山高校は部員数すら満足に集まらない弱小高校。いかに今野投手が優れていても、一人の投手に任せきりで勝ち抜けるほど甘くはなく、当然甲子園出場などは夢のまた夢。そんな高校からでも、逸材を見つけてしまうプロのスカウトの網の張り方の広大さと、素質を見抜く眼力には改めて感心せざるを得ない。なお、今野投手指名の決め手は、ドラフト前日に同投手の投球をVTRで見た当時の楽天の監督星野仙一氏の「面白い。ええやないか。」の一言だったそうである。

 

野投手はまた、この書で紹介された選手たちの中で、唯一NPBの現役選手でもある。今シーズンは4月に移籍後初勝利を挙げたそうだ。

 

本当にギリギリのところでプロ野球という世界に滑り込むことのできた彼らを待っているのは、アマチュア時代をはるかに超える過酷な競争社会だ。入ってしまえば一位指名も最下位指名も関係なく、横一線の競争だというのはタテマエで、球団の体質や慣習にもよるが、同じ高卒でも、ドラフト上位指名選手と下位指名選手では雑用の有無や寮の部屋などで差がつけられることが多いそうだ。下位指名の選手は雑用などもこなしながら、上に這い上がるチャンスを得るために上位選手を凌ぐ修練を積まなければならない。で、与えられたチャンスは確実に生かさないと生きていけない。こういう過酷さの上に立つレギュラー選手たちはそれだけで大したものなのだ。ちょっと打てなかったり、勝てなかったりしただけで、一般庶民が簡単に批判などしてはいけない存在たちなのだ(笑)。中には勘違いして不倫の相手を取っ替え引っ替えするような奴もいるけどね。

 

また、本文の中では、ダイエーやヤクルトで活躍した田畑一也氏も取り上げられていたが、彼は「再生工場」とまで言われた野村克也氏に見出された一人である。彼らは、本人の努力に加え、その努力に裏打ちされた「実力」を見出す人にも恵まれた事になる。つまり選手の実力を見極める眼力を持った人の存在が指導陣にも求められることになるのだが、野村氏を超えるような目利きは今の所存在していないような気がする。

近年では、育成ドラフトなどというものも支配下選手のドラフトと同時に行われるようになり、育成選手から大成した選手も少なからず出現しているが、特に巨人は、数年後のドラフト上位候補となるような「原石」を多数囲い込んでしまっているようである。囲い込むのはいいが、その中から一人でも多くの磨き上げられた「玉」を輩出して欲しいものだ。お得意の札ビラ作戦は、選手ではなく、ソフトバンクのスタッフ陣に発動すべきではないだろうか(苦笑)。