脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

現世は次に生まれ変わって人間界に戻る際の修行の場?『祖父・多田等観が語った チベット密教 命がホッとする生き方』

 

 

昨日のブログでも書いたが、一昨日の金曜、久々にココロのエネルギーが枯渇するような状態に見舞われた。こういう時の私の対処法は、なるべく長く寝ること、制限をかけないで少々健康に悪い食い物でも好きなだけ食うこと、そして、精神安定剤的な書物を読むことだ。

 

というわけで、現実の本棚に並べたら、小さな移動図書館くらいの蔵書にはなりそうなKindleから引っ張り出したのが標題の書。題名通り、とにかくなんだか「ホッと」してみたかったのだ。

 

著者佐藤伝氏は題名にもある通り、多田等観氏のお孫さんだ。

では多田等観さんって何者?

秋田の田舎の寺の三男坊として生まれ、京都に修行に出たらひょんなことからチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ師に直接教えを乞うこととなり、現地の僧侶ですら取得に10年かかるというゲシェー(博士)という資格を3年で取得し、貴重な経典とともに帰国したという、日本におけるチベット仏教のレジェンドだそうだ。すごい方もいたもんだ。自らの浅学を恥じるばかりである。

 

で、その等観氏の息子さんのお子さんが著者佐藤伝氏。佐藤氏のお父さんは脳外科医で、佐藤氏は祖父からチベット密教のエッセンスを、父親からは脳の科学的な仕組みを学び、現在では、自分自身で自分の行動をどう制御するのかに重点を置いて、時間をマネジメントするためのカウンセリングや、そのノウハウを教える教室などを経営しているそうである。祖父と父の教えが幸せに融合した好例と言って良い生き方だろう。

 

さて、多田等観師の説く、人間の人生の基本理念をごくごく荒っぽく言うと「流れに任せて生きること」ということになるだろう。これは何も根無草のような生活を送れということではない。

人間が苦しむのは、何かしらの欲求を無理やりに叶えようとするからで、叶うも叶わないも、宇宙が定めた流れによるもの。一つ一つの物事に一喜一憂することをやめ、努力は惜しまないものの、その努力が実らなくても必要以上に落ち込んだり、悔しがったりしないことが肝要だという教えである。

 

なるほど確かに「ホッと」できる考え方ではある。欲望こそが向上心の原点であり、競争に勝ってステータスをあげていくことこそが豊かな暮らしを作り出す、という世界の中にどっぷりと30年以上も浸かってきてしまった身にとっては、理解はできてもなかなか実践するのは難しい考え方でもあるが。

 

現に私もこの書で説いている行動理念に共感する部分は大きいのだが、それでも、あえて言えば「男は出世してナンボじゃい!!」という考え方を簡単には捨てられない。会社で管理職になるのはまっぴらなのだが、何か文芸作品のひとつも世に問うて、願わくばベストセラーになってがっぽり印税いただきたい、などという欲は捨てきれないのだ。強烈な承認欲求と物欲の塊なのだ、私は。自分で書いていて少々気恥ずかしくもあるのだが、まだ、現世は次回に人間界に生まれてくるための修行の場だから、しっかりと徳を積んでおこう何ぞという殊勝な気持ちには到底なれない。失敗した時にもっともらしい言い訳として使えるなくらいにしか思えていない。俗物そのものだ(苦笑)。

 

人間は宇宙という大きな存在の一部であり、今生きている世の中というのは、たまたま巡り合わせた場であって、ほんの数十年でまた宇宙に戻り、またいくばくかの時間を経たら生まれ変わる。そんな中で今の悩みなんざホンの一瞬の些細なことに過ぎねえんだから、クヨクヨしても始まらねーよ、という新しい視座をもらったことは一つ大きな収穫だった。

 

もう一つ。最後の方に「夫婦は前世では仇同士だった」という章があり、この章には微苦笑を浮かべさせられた。佐藤氏によれば、前世で仇同士だったからこそ、現世では夫婦として相和す運命を選び取って両者が生まれ出てくるのだという。「この人しかいない」「運命的なものを感じた」という状況が両者に生じるのは「前世の反省」があったからだそうであり、お互いがお互いの前世での所業を許せる状態になっていなければ、現世でもひどい夫婦喧嘩をしたり、離婚してしまったりするそうだ。あはは。私と当家の最高権力者様、世間でいうところの配偶者とは前世でどんな諍いを起こしていたのだろうか?たまに、絶対に相容れないような価値観の違いを感じることはあっても、お互いに深刻な事態にならないのは、双方が前世を深く反省している証拠なのだろう(笑)。

 

それにしても、もし前世が現世に影響するというのなら、せめて、前世の失敗の記憶くらいは残しておいて欲しいものである。でないと、多分私は懲りずに同じ過ちを繰り返してしまいそうな気がする。