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サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

ゾンビ発生状況下における殺人事件ってのは新鮮だったが… 『屍人荘の殺人』鑑賞記

 

屍人荘の殺人

屍人荘の殺人

  • 発売日: 2020/06/16
  • メディア: Prime Video
 

 

神木隆之介主演ということで、彼のファンである当家の最高権力者様が借りてきたのが標題の作。私一人でレンタルDVD屋に行ったら決して借りて来ない作品だが、最高権力者様のご相伴に預かって鑑賞。

 

主人公の葉村(神木)は神紅大学生。ミステリー愛好会というサークルに属し、同会の会長明智恭介(中村倫也)とともに「神紅のホームズ•ワトソン」などと呼ばれている。ただし、名探偵というよりは迷探偵と言った方が良いようなコンビであるらしいことが最初のシーンで示される。

そこに現れたのが本作のヒロイン剣崎比留子(浜辺美波)。彼女は捜査に窮した難事件をいくつも解決した実績があるという設定。その実力が確かなモノであることを示すエピソードも最初に配備されている。

 

この3人は、神紅大映画研究会の合宿に参加することになる。同会のOBである七宮は富豪のボンボンで、七宮家が所有する豪華な別荘「紫湛荘(しじんそう、すなわち題名と引っかかっている)」で行われるこの合宿は別荘のある土地で行われる夏フェスを鑑賞するのが目的という建前だが、実際は七宮とその仲間が女漁りをするためのもの。前年の合宿では一人の女子学生が行方不明になったという曰く付きのイベントで、今年の実施前には研究会の部室に脅迫状じみた書面が置かれていた。その辺の謎解きのためにミステリー愛好会の二人と剣崎が招かれたという設定だ。

 

で、夏フェスの開催中、いきなりゾンビが出現する。何だかよくわからない特殊機関の策略でウイルスを打たれたからなのだが、この特殊機関の目的がよくわからない。何のために夏フェスでゾンビの病原体をばら撒くようなマネをしたのか?これについては最後まで種明かしがされない。とにかく、主要な登場人物たちを紫湛荘に閉じ込めるための条件を整えるためだけに発生させられた事件である。なお、主人公キャラの一人と見做していた明智は、紫湛荘に逃げ込む前にゾンビの大群に捕らえられて、あっけなくゾンビ化してしまい、謎解きに絡むことも、迷推理で剣崎を撹乱することもなく、出番をほぼ全て終えてしまう。今や当代きっての売れっ子で、『この恋あたためますか』に主演している中村倫也だが、この作品の製作時点では、主人公を演じるほどの格とは認められていなかったようである。作品のおける登場シーンの多寡、印象の強さは時に残酷なまでにその人の評価を表してしまうものだ。妙なところで納得してしまった。

 

さて、物語では、外界と遮断され、逃げ道もない紫湛荘の中で、しかも鍵がかかった状態の部屋の中で殺人事件が起こる。外にはゾンビの大群、中には姿の見えない殺人犯、というかなりサスペンスな展開なのだが、何というか、登場人物たちには今ひとつ緊張感が感じられない。全ての登場人物の年齢が若すぎたせいなのか、例えば『犬神家の一族』に出てきた双子の老婆のような、作品全体の雰囲気を怪しいものにするキャラクターの登場がなかったせいなのか?壁の向こうにはゾンビの大群というホラー要素は常について回ってはいるものの、怖さに関しても緊迫感に関しても、アクセントというかクライマックス的なシーンがなく、淡々と紫湛荘内で殺人が行われ、一人一人「正常な人間」が死んでいくという印象だった。それなりに伏線があったりして、それはしっかり回収されていき、最後にはちゃんと辻褄の合った謎解きはなされる。

 

中途半端な感想で申し訳ないのだが、ネタバレしてしまっては元も子もないので、こうした語り方しかできない。そもそもの設定はなかなか興味深かったのだが、結局その設定だけに終わってしまったという印象しか持ち得なかった。