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サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

最前線の記者が語る「半グレ」の実態 『半グレと芸能人』読後感

 

半グレと芸能人 (文春新書)

半グレと芸能人 (文春新書)

 

 

今ではすっかり良きパパとして振る舞っている市川海老蔵の酒癖の悪さを、一気に世の中に知らしめたのが六本木のクラブで引き起こされた「市川海老蔵殴打事件」。歌舞伎界のプリンスが、内出血した眼球もそのままの痛々しい姿で記者会見した姿は鮮明な記憶として残っているが、殴打した犯人が悪いのは事実としても、漏れ伝わってきた、テキーラの灰皿一気飲みとか、絡み癖とかの悪行を聞くに及び、海老蔵の方の「落ち度」だって決して小さくはない、ということで、海老蔵への見方がどちらかというと悪い方に定まった一件だった。

 

ここで暴行した側ということでクローズアップされたのが、「半グレ」の代表格関東連合。名前からすると、伝統的なヤクザっぽいんだけど、どうやら、例えば山口組みたいな広域暴力団組織とは一線を画す存在らしい。じゃ、一体なんなの?どんな人が属してて、どんなことやってんの?従来のヤクザとはどう違うの?という疑問が当然起こってくるし、マスコミの方もそうした受け手の需要を鑑みて、事件当時は、いろんな情報をそれこそ垂れ流しと言って良いほどリリースしていた。標題の作は、いわばこうした有象無象を含んだ大量の情報を一冊にまとめたものといえる。簡潔かつ具体的に「半グレ」とはどういうものかを説明してくれている書だ。

 

そもそも「半グレ」とは反社会勢力に詳しいジャーナリスト溝口敦氏の造語で、半分グレた(愚連隊)、グレーな集団、及びその集団に属する人間を指す言葉だ。決してまともな職業で稼いでいるわけではないが、かと言って名のある反社会勢力に属しているわけでもない、文字通りグレーな存在の人間を指す言葉としては言い得て妙なネーミングだ。

 

例えば関東連合は、元々中学生高校生くらいの年代の人間が集まった、主に都内の暴走族の「選抜隊」の構成員が、成長してもつるみ続けた団体だ。彼らは表向き、クラブや会員制のバーなどを営み、金回りのいい連中をVIPとして扱い、高級なコールガールや違法な薬物などを当てがって金を落とさせることを生業としているようだ。そして、そうした金回りの良い連中を引き寄せるのに、格好な広告塔となるのが芸能人である。そこで、芸能人にも様々な特典を用意して店に来てもらう。先に述べたような、娼婦や薬物といったヤバイ特典を、だ。そんなところから、芸能人と半グレとの接点ができてくるというわけだ。

 

以前、新宿の歌舞伎町を中心に中国系のマフィアが勢力を伸ばしたことがあったが、その際、「中国人たちは交渉とか手打ちとかいう手順を踏まずに、すぐに殺戮に走る。日本古来のヤクザは、血を見るような揉め事に発展する前に、うまく交渉してそれなりの『手数料』で争いの当事者同士をなだめることに努めるから、日本のヤクザはグレーゾーンにおける秩序の維持に役立っている」というような主張がなされたことがあった。今の半グレはまさに当時の中国人マフィアのような無軌道さでヤバいことをしまくっている感がある。対立組織の人間を集団で襲って金属バットで殴り殺すようなマネを平気でするし(六本木フラワー事件と称される事件。殺された人物は人違いであったことがのちに判明)、違法薬物の広がりにも少なからず関係していると思われる。

 

警察もただ手を拱いていたわけではなく、関東連合のような半グレ集団を広域的な反社会組織と同等に扱う方針を示して、取締りを厳しくしてはいるが、半グレたちはアルカイーダのようなもので、ここを潰したら、この集団は壊滅できるという「総本山」を持つことのないゆるいつながりであるがゆえ、時折、組織の上層部の人間をポツポツ逮捕するようなことはあっても、根絶できていないというのが実態のようだ。

 

というわけで、私のような一般ピーポーであっても、彼らの掘った落とし穴にハマる危険性は常にそこいら中に存在する。ミーハー気分丸出しで「芸能人がよく来るらしい」などという店にうかつに入ったら、身包み剥がされた上に、クスリまで覚えさせられて奈落の底に突き落とされるかもしれないのだ。都会の繁華街に行く時はポン引き、プチぼったくりに注意することはもちろん、様々なことに注意しなきゃいけない。気心の知れた飲み屋で酔い潰れているくらいが一番安全だ。