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『半沢直樹』が終了して一週間。今夜は「半沢ロス」に悩まされそうだ。オンタイムでの放送を見るために、数分前からTVの前に陣取ったドラマなど、本当に久しぶり。否応なしに来てしまう月曜に向けての憂鬱さを大幅に減少させてくれる作品だった、と改めて感じている。
さて、↑にリンクした記事は今回の「半沢ブーム」をうまく説明してくれていると思う。最終回の箕部幹事長への詰め寄り方などは、場合によっては実にあざといシーンとなってしまう。
「この国の真面目に働く全ての人々に謝ってください!!」
なんともまあ、大袈裟なセリフだし、メガバンクの管理職にあるとはいえ、一介の銀行員が、公衆の面前で、大物政治家に向かって堂々と言い放つところなどは完全なるフィクションだ。実際には、あの場にたどり着く前に警備員にでも摘み出されてそれで終わりのはずだ。だが、そのフィクションが心地よかった。
芝居用語から派生した慣用句に「啖呵を切る」という言葉がある。もともとは胸の病気の一つの発露として排出される痰を切ることで胸の病気を治すことを指していた。転じて、胸にたまったもやもやをすっかり吐き出して、良い気分を作り出すという意味になった。コロナ禍をはじめとして、国民の全てが様々なもやもやを胸に溜めている現在、あの台詞は実にもって見事に国民の気持ちを代弁した。半沢は庶民の代表として正義を掲げ、箕部は悪徳政治家の典型例として、それぞれの人の脳裏に浮かぶ人物の象徴としての悪の権化と化していた。で、庶民の代表が、実際には手の届かない巨悪を懲らしめる…。実にわかりやすい勧善懲悪劇だ。
つい10年くらい前までは時代劇がこの勧善懲悪による大衆のカタルシスを担っていたが、残念ながらどの時代劇も偉大なるマンネリを脱することができずに少なくとも地上波からは消滅した。
今回のこのドラマは、歌舞伎役者が大挙して出演していたこともあり、正義、悪のコントラストがクドイまでにはっきりしていた。伊佐山を演じた市川猿之助氏など顔に隈取りが透けて見えたほどだ(笑)。
半沢の妻、花を演じた上戸彩の「生きていさえすればなんとかなるよ」というセリフも印象的だった。言葉としては本当にありふれたもので、日常のあちこちでいろんな人が発して、いろんな人が受け取っている言葉だ。しかし、あのシーンで癒されたり、元気をもらった人は多いと思う。オンエア直前の有名女優の自死の報道により、より一層重い意味をまとってしまうという、予想外の出来事もあったが…。いずれにせよ、身近な人のほんの一言で、どんな大きな敵であろうと立ち向かう力が出ることもあれば、失意のどん底に突き落とされることもある、人間の不可思議さを象徴していたシーンであるように思う。
香川照之演じた大和田の顔芸と名台詞連発、脇を固めた悪役たちの、個性的で確かな演技など、細かい見所もたくさんあった作品だったが、様式美への一種の渇望や、言葉の意味の重さ、行動のタイミングなど、自分自身の行動に照らし合わせて色々と考えさせられることの多い作品であった。1回だけ観飛ばして終わりにするのは惜しい作品でもある。少し時間を置いてから、前作と併せ、改めてじっくりと鑑賞してみたいと思う。