脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

お寺とは決して興味本位、怖いもの見たさで訪れる場所ではない『実録 お寺の怪談』読後感

 

実録 お寺の怪談

実録 お寺の怪談

 

 

「祟り」を日本の政治や社会に重大な影響を与えるものであるとする、独特の宗教観で知られる井沢元彦氏によれば、仏教というものは元々「死者の祟りを鎮める」という効能はなかったのだそうだ。地方によっては、唱えるだけで妖怪の類が退散すると伝わる般若心経にしても、標題の書に掲載されている現代語訳をみる限りでは、現世における人間の身の処し方、心の持ち様といったモノを説く内容であって、死者の怒りを鎮めることには直接つながっていない。輪廻転生を基本思想とする仏教においては、何か良くない行動を起こせば、いつかどこかでその報いを必ず受けるということになるので、その報いを受けないよう現時点でしっかり良い行いをしなさいよ、という教えを死者や狐狸妖怪の類を説き伏せるために用いているのだ、と考えることもできるが、無理矢理感は否めない。

 

ただ、仏教(に限らず宗教全て)は人の死という事象に関わる事が重要な務めの一つであるため、どうしても、死後の世界やら、死んだ後の魂の存在なんてことに結びつきやすくなる。寺などは、生と死の間を繋ぐ格好の舞台装置である。墓場が併設されている場合も多く、そこを訪れる度、人は死について考えざるを得なくなる。そして、死や死後の世界に結びついたモノゴトは寺に持ち込まれる事が多い。

著者高田寅彦氏は自身寺の子として生まれ、仏教系の大学で学んだ仏教のスペシャリスト。実際に寺で育ち、かつ、学問としての仏教も修めた著者が収集した「お寺の怪談」には大いに興味を惹かれたんで、衝動DL。

 

収録されたお話はどれもこれも怖い。銀行の貸金庫から腕が出現する様が防犯カメラに写っていたとか、事故で死んだ子供の毛髪を移植した人形が様々な怪異を引き起こすとか、なぜか右の後輪ばかりがパンクするスポーツカーとか。一時このテの怪談を再現VTRにして流すような番組が流行った事があったが、こういうお話は下手に映像にしてしまうより、文字で読んだ方が、より現実味と恐怖が増す。自分の想像がどんどん怖い方怖い方に飛躍していってしまうからだ。

 

中でも一番私が怖かったのは、古寺の改修工事の際に本堂の床下の地面から出てきた五つの石のお話。著者が大学生の頃、大学の同級生の実家である寺の改修工事を住み込みで手伝っていた際のお話だそうだ。五つの石にはいずれも五芒星が刻んであり、等間隔に埋まっていたのだそうだ。改修の基礎工事の邪魔になるからと掘り出しておいたら、その日から様々な怪異が起こるようになったそうだ。どんな怪異かは、是非本文に当たっていただきたい。

 

この石は何か邪悪で強力なモノを封じ込めるために埋められ、その封印が解かれないよう、石を埋めた上に寺を建てたのではないか、という結論に達し、石はきれいに洗ったのちに塩で清め、元あった通りに埋めなおされたそうだ。果たして怪異はピタリとおさまった。

 

知らないうちに聖域を侵して、その結果悪い報いを受ける、というのは怪談にはありがちなストーリーだが、「科学的な根拠」という錦の御旗の下、我々は知らず知らずのうちに何かとてつもない害悪を解き放ってしまってきているのではないか?そう考えるとそこ知れぬ恐怖に襲われる。コロナウイルスなんぞという正体不明のモノに全世界が翻弄されている昨今の状況を鑑みると、あながち迷信だとして笑い飛ばすことはできないような気はする。

 

寺に限らず、神社もしかりだ。神聖にして侵すべからずとされている場所には何か隠された曰くがあるのではないか、と考えると神社仏閣は本当にありがたいものなのかも知れない。