脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

改めて人間関係って難しい『影裏』鑑賞記

 

影裏(通常版) [Blu-ray]

影裏(通常版) [Blu-ray]

  • 発売日: 2020/08/05
  • メディア: Blu-ray
 

  沼田真佑氏の芥川賞受賞作である同名小説の映画化作品。原作を読んでいないこともあるし、キャストの顔ぶれを考えても、私自身は貸しDVD屋の店頭では絶対に手に取らない作品だが、綾野剛好きの最高権力者様が借りてきたものを、隣でご相伴に預かった。

 

物語は製薬会社に勤める今野秋一(綾野剛)が主人公。秋一は転勤で物語の舞台となる岩手に引っ越してきたばかりで、会社の中にも、近所にも親しい人間がいないという設定。自分から人間関係を開拓していくことには消極的だというキャラクターも付与されている。

 

秋一が禁煙場所での喫煙を咎めた事がきっかけで、親しくなり、一緒に家飲みしたり、釣りに行くことになるのが、日浅典博(松田龍平)。この二人の日常の交流を描く事で物語が進んでいく。この二人が特別バカなことばかりやりまくるというコミカルな展開でもなければ、30前後の男二人の日常生活をただ描写してもつまらない。当然、シリアスな盛り上がりが描かれる。日浅にとっては、秋一は単なる気の合う同僚兼友人だったが、秋一にとっては日浅は恋愛対象。開始早々、綾野剛のすね毛の一本もない変に女性っぽい脚が映されたり、パンツ一丁で行動する様が描かれたりするので、そういう展開を狙っているのかと思ったら、思いっきりその予想が当たってしまった。

 

ある日の家飲みの際、秋一の家に泊まっていた日浅に秋一は衝動的に「襲いかかって」しまう。そんな気の全くない日浅は秋一の襲撃を撃退するのだが、そこから二人の関係はギクシャクし…、というようにお話は進行していく。無理やりストーリーを深読みすれば、これはあらゆる人間関係に当てはまるトラブルだといえよう。一方が思っていることと、他方が感じていることが実は全く違う。恋愛関係に発展する前の男女の言葉のやりとりから、会社の仕事における指示の内容と実行者の実施内容が食い違うような事例に至るまで、ある人間の考えていることを他の人間が完全に理解することは難しい。一方をセクシャルマイノリティーにする事である意味非常にわかりやすく、同じ風景を見ているつもりで、実は全く違う思いをお互いに抱いていたという姿が描かれる。

 

そして日浅は製薬会社を辞め、別の会社に就職するのだが、営業職として釜石に赴いている時に東日本大震災に遭遇し、行方不明に。秋一は日浅の姿を探し求めて、必死の思いで、日浅の父親に日浅の捜索願を出すように依頼するが、そこで父から「息子とは義絶している」という言葉を突きつけられる。理由は日浅の嘘。彼は大学に入学、通学していたという嘘をつき続けて、学費その他仕送りを全て着服した上、様々なトラブルの尻拭いを全て父親に押し付けていたため、堪忍袋の尾が切れた父親は日浅を他人にしてしまったのだ。ここでは、人には様々な姿があり、全ての姿を完全に把握するのは不可能だという事実が秋一にも観衆である我々にも突きつけられる。

 

自分の思いは、正しく伝わらないし、他人の姿もまた正しくは捉えきれない。いやはや。社会的動物として他人と共存していかなければならない人間とは、難しい生き方をしなければならないということを、考えさせられた作品だった。お互いの勘違いをうまくリンクさせていくしかないんだろうね…。