コミックエッセイストわたなべぽん氏による「やめてみた」ことと、やめたことによる生活の変化を描いた一冊。題名からして、今や一つの「価値体系」にまで祭り上げられた断捨離に関する内容かと思ったらさにあらず。無駄なモノやコトを削減していこうとする姿勢は共通しているが、断捨離が「モノを捨てること」を目的の一つにしているのに対し、わたなべ氏は必ずしもモノを捨てることを最優先しているわけではない。
この「思想の違い」が端的に現れたエピソードを紹介してみよう。ある日わたなべ氏は編集者との打ち合わせに出かけることになったのだが、寝過ごしたか、時間を間違えたかで、出発がギリギリの時間になってしまい、とる物もとりあえずという状態で自宅を出発。途中で筆記用具を忘れたことに気づき、出先のコンビニで小さな手帳とボールペンを買って間に合わせたそうだ。打ち合わせから帰ってきた後、机周りを見回すと、最初の数ページだけ書いてあとは白紙のノートやら手帳、一、二度使ったままでほったらかしにしてあるボールペン、シャープペンの類が山のようにあることに気づくのだ。この気づきを検証するために、比較的近い過去のレシート類を整理したら、コンビニのものが圧倒的に多いという事実が現れた。本来ならすでに持っているモノで十分に対応できたのに、そうしたモノを事前に準備しておくことを怠ったために、忘れたり、必要な時に見つからなかったりして、慌ててコンビニで間に合わせのモノを買うという行動の繰り返しの集積が見事に現れたのである。
これを機に、わたなべ氏は打ち合わせなどがある際は、その前日の夜までに必要なモノを準備し、カバンにつめておくという作業を必ず行うようにしたそうだ。結果、もちろん、間に合わせ買いは減ったし、カバンにモノを詰める際に翌日の打ち合わせについて考えるようにもなったことで、打ち合わせも充実してきたそうだ。無駄な間に合わせ買いを「やめた」ことで、物理的にも財布にも優しい上、生活の質までもが向上したのだ。
おそらく、これに類するお話は、我々の日常にそれこそ山のように転がっているはずなのだ。今まで、手元になければ買う、古くなったモノは新しいモノに買い替える、ことを当たり前としてきたのなら、当たり前という思い込みをいったん捨てて、生活の仕方を改めて見直して、別の方法や手持ちの資源の組み合わせで解決できないか、を考えていこうというのが、標題の書の根本思想ということになろう。
この思想は、言うは易く行うは難しの典型だ。かくいう私も、つい最近最新のFIREHDとMacminiに買い換えてしまったばかりだ。今までの手持品である程度は事足りてはいたのだが、新しさと高性能化という謳い文句の誘惑に負けた結果である。自分の生活を根本から考えてみて、本当に必要か否かを考えた上で新しいモノを手に入れることを実践するのはこれからだ。ちょうどいい具合にコロナ禍で、普段の生活よりは時間的にも精神的にも余裕がある。こういう時こそ、自分の普段の行動を見直すいい機会であると捉え、見直しによって見つけたムダを省く勇気を身につけたいと思う。