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サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

なぜ1970年代に入り北朝鮮の経済は停滞して行ったのか?『将軍様の錬金術-朝銀破綻と総連ダークマネー』読後感

 

 

著者の金賛汀氏は総連系のマスコミに在職していたこともある在日朝鮮人。その立場から見た、北朝鮮の経済破綻とその一つの象徴的な出来事である朝銀信用組合(以下朝銀)破綻の内幕を詳しく述べているのが標題の書。

 

一体なぜ、朝銀は破綻してしまったのか?ズバリ言ってしまえば将軍様(この書の発行時点では金正日氏)への上納金をひねくり出すために、無理矢理な経営を行い、その結果としてほとんど全ての資産を失ったからである。

 

ではなぜ、祖国からはいろんな意味で「遠い」日本にある朝銀が、将軍様にほとんど言いなりで上納金を納めなければならなかったのか?そのからくりの陰に暗躍していた総連の活動について著者が綿密に調べ上げた事実が積み上げられている。

話は1970年代以前に遡る。儒教の極端な曲解により、統治者たる自分自身のカリスマ化を図った金日成氏は威光を示すために、各地に馬鹿でかい自分(および息子の金正日)の巨大な像を建てさせた。そしてその莫大な費用をひねくり出すために、国内の各産業から様々な形で金を吸い上げたのだ。健全な資本主義下であれば、企業があげた利得というのは、技術開発や先進機器の導入によって国際的な競争力を増し、さらなる成長を促す方向に使われるのだが、せっかくの利益は企業の拡大ではなく、役にも立たない像の巨大化をはじめとする無駄遣いに費やされた。そのため、旧式の生産機器を使い続けなければならなかったり、新規技術の導入ができなくなり、北朝鮮の国際的な競争力はどんどん落ち、その生産物の商品価値は著しく低下した。商品価値が下がれば、量も期待できなくなるし、価格も下落する。したがって利得の量も減っていく。そして、拡大に回すべき原資も不足して、ますます競争力が下がり、という絵に描いたような悪循環が発生したのだ。

 

その悪循環を脱するためにどうしたら良いかを考え、実行する能力は残念ながら、始祖金日成氏にもその嫡子である正日氏にもなかった。なんとか金を集めるために利用したのは在日の同胞たち。様々な名目をつけて搾り取るだけ搾り取った。書中に詳しく述べてあるが、どんなに金を貢いでも、北朝鮮の国内以外では大した意味を持たない、名誉がもらえるだけ。これでは寄付のしがいがないし、日本での経済活動にも支障が出る。というわけで、1980年代には、在日同胞からの「支援」もかなり心細くなったようだ。

 

そこで今度は朝銀を利用してなんとか金をひねくりだそうという考え方が出てくる。どうして、殖産興業に努めないで、今ある「資源」を絞り尽くそうとする方に考えに行き着くのか?非常にうがった見方をすれば、旧来の「哲学」がその根本にある。労働は下賤のものが行うもので、支配者階層はただその労働の上前をはねれば良いとする考え方だ。人民が納得するのなら、そういう統治形態も致し方ないが、誰も納得などしていない。国内の人間は恐怖政治に縛られ、在日同胞の皆様は、国内にいる親族を人質に取られているから仕方なく、なけなしの金を差し出しているだけ。国をあげて、わが国では「反社会的勢力」とされる集団と同じような思考経路と行動様式を取っているのが、北朝鮮という国なのだ。

 

そして、朝銀は金を差し出さなければならない、という絶対的な命令に従うために、土地取引を主とするマネーゲームに乗り出すのだが、そもそもそうした道に詳しい人物がいたわけではないので、あっという間に元も子もなくす羽目に陥った。2000年代初頭には朝銀は破綻し、その事態に対して日本の公金を投入することの是非が喧しく議論された。私は個人的事情で、その期間、そんなことを考えている余裕はなかったので良く覚えてはいないのだが、いろんな人がいろんなことを言っていたことだけは記憶している。

 

著者氏によれば、朝銀というのは、もともとあまり覚えのよろしくない職業(風俗店経営やパチンコ店など)についている在日同胞の皆様に融資を行うための機関であり、将軍様からの要求が過度にエスカレートするまではそれなりに機能していた(著者氏自身も自宅を購入する際に、在日朝鮮人であることを理由に日本の銀行には融資を断られたが、朝銀はすんなり貸してくれた、という実体験があるそうだ)。しかし、マネーゲームに手を出して破綻し、後継の信用組合は営業を続けてはいるものの、在日の皆様の暮らしを一層窮屈なものにしてしまった。将軍様ご一統の罪は果てしなく大きい。

つい最近も、世界全体がコロナウイルスに注意を奪われているとみるや、いきなりまた金ばかりかかって実態は全然大したことのない花火を打ち上げて悦に入っている三代目の姿が報じられたばかりである。もはや、ならず者国家というよりは単なる駄々っ子、かまってちゃんである。もはや、中国に併合してもらって、共産思想で叩き直してもらうか、アメリカに攻め入ってもらって、政権の転覆を図るくらいのことをしないと、この駄々っ子は手に負えそうもない。