村上龍氏による、人生相談の書。読者からのさまざまな悩みに対して、村上氏が自らの考えを回答として示す、という形式となっています。奥付をみると、初版の出版は2013年。出た瞬間に買ったものの、10年も積ん読したままにしておいてしまった一冊です。
ただし、相談される悩みも、村上氏の回答も一切古びてはおりません。むしろ10年の時を経て、当時と同じ悩みであってもそこから脱却することはより困難になっているように思います。これは、日本の社会環境、とりわけ経済格差が10年前から改善されるどころか、さらに悪化していることの証左でしょう。
さて、村上氏の「回答」はよく言えば冷静、悪く言えば少し突き放したものです。村上氏は自らも語っている通り「会社員」として奉職した経験がないため、会社員の業務上の悩みというものを具体的に想像することができないからです。また、各々の方々の悩みの背景は人それぞれであり、短い文面の質問だけでは根本的な解決に至ることは難しいという、こうした「形式」の持つ根本的なもどかしさというのもあります。
こうした制約の中で村上氏はどのようにお悩み相談に答えたのか?それについては是非とも本文を参照してください、としか言いようがありません。村上氏は、自分自身の努力によって道を拓いてきた人でもありますし、映画監督なども経験されているので、チームとしてモノゴトを進めていくにはどうしたらよいかについても一定の見識を持っている方です。その方の持つ悩みを根本的に解決できるか否かは別にして、なるほどな、と思える回答がそろっています。
その上で、私自身は、そもそもこうした人生相談などというものに「結論」を求めてはいけない、と考えています。出て来た回答はあくまでも「参考」として扱うもので、ある程度の指針にはなっても、その指針が必ずしも個人としての「正解」に結びつくとは限らないからです。村上氏が書の題名にズバリ記した通り『自由とは、選び取ること』。「自由」を得るためには、なにからの「自由」(経済的な制約、人間関係など)を目指すのを明確にしたうえで、「自由」を獲得するために努力することが必要です。ゆえに努力の「選択肢」を絞り込んで、その努力の結果についても自分で享受しなければならない。
人生には何かの試験のような「正解」はなく、その時点その時点での極大値(と考えられる状況)をめざして努力していくしかない、というのが根本的な回答になるのだと思います。
私自身を鑑みると、現在奉職している会社には夢も希望もないのでとっとと辞めたいが、そうなると経済的に立ち行かない、という状況から脱却したいというのが今の願いです。それ故、文筆業で一定額の金額を稼げる状態になるための努力を続けています。この努力が実を結ぶか否か、まったくわかっていません。それでも努力し続けるしかありません。
いまさら投資やら、起業やらを学び直そうという気にはなれないし、こうした分野には常に、今ある財産を失う可能性が付きまといます。何よりも携わっていて楽しいと感じられないと思います。
前途は多難であっても、いつかは採算が取れる仕事になると信じて文筆業を続けていくことが、現時点で私が出した「結論」です。